店内の時計を見た。

13時を過ぎていて、お腹が空いている事に気づいた私は、もう家に帰ろうと、入口に体を向けた。

その時だった。


同じ本棚の奥に、ボザボサ髪の黒縁メガネの男性を発見した。

服装は白いTシャツに、緑色の短パン。

肌は日に焼け、髭も生えていた。

誰が見てもダサイ恰好のその男性に、私は見覚えがあった。

最も私の知っている姿は、爽やかにスーツを着こなす、好青年の方なのだが。


声をかけようか、正直迷った。

その男性と会ったのは、去年のことだし。

高校3年生になってからは、一度も会っていない。

私は目立つ人間ではないから、果たして覚えてくれているかも疑問だ。


それでも、体は動いた。

あの時、声をかければよかった。

そんな後悔だけは、したくなかった。


私はその男性の横に立ち、何も言わずに肩を、トントンと叩いた。