「先生?」

少しだけ後ろを向くと、先生の顔が近い。

「気をつけて行け。」

そしてぎゅうっと、抱き締める力が強くなる。

「は、はい。」


男の人に、こんなに強く抱きしめられるなんて。

脳みその中がパンクしそうになる。


余韻に浸っていると、先生の体が私から離れた。

後ろを向くと、小さく手を振ってくれている。

「行ってきます。」

「行ってらっさい。」


家族みたいな挨拶を交わし、私は先生の部屋を後にした。


先生の家から駅までは、10分くらい。

塾は駅から歩いて、5分程の場所にあった。

本当は電車なんて使わなくても、先生の家から歩いて行ける距離。

でもそういう設定にしないと、それこそ怪しまれる。

お母さんから貰った電車代は、申し訳ないけれど、お小遣いにしようっと。


「芽依!遅い!」

「ごめんごめん。」

同じ授業を受ける友達は、とっくに教室へと入っていた。