カタカタと何かを打ち始める先生。

まるで私が同じ部屋にいないみたいに。


「ねえ、先生。」

「ん?」

「私、今から塾に行ってくるね。」

「ああ。」


こっちを向いてくれない。

寂しい。

でも仕方がない。


私はそっと立ち上がると、バックの中からテキストとノートを取り出し、カバンの中に詰め込んだ。


「じゃあ、先生。行ってきます。」

「はいよ。」

先生に挨拶して、玄関に向かう。

短い廊下の間に、一度だけちらっと先生を見たけれど、やっぱりパソコンに向かって、カタカタと小説を書いていた。


はぁぁっと小さいため息を、一つつく。

甘い生活を望んでいたわけじゃないけれど、ここまで相手にされないなんて、思ってなかった。


本当にここに来てよかったのかな。


へこんだ気持ちと一緒に、靴を履いたその時だった。

「藤沢。」

先生に呼び止められて、後ろから抱き締められた。