「先生……」

振り向くと既に先生は起き上がっていて、Tシャツを首から被っていた。

「そろそろ帰る時間だろ。服着て。」


さっきまでの甘い時間は、どこに行ってしまったのか。

私は返事もないまま、むくっと身体を起こし、近くに脱ぎ捨てられていた下着と洋服を纏った。

「送るよ。」

先生はキーケースを持って、私よりも先に玄関へと向かった。

「忘れもん、ないな。」

「うん。」

そう言うと、私たちは何事もなかったかのように、このマンションを出て、また広い通りへと出た。


夕暮れ時。

さっき先生のマンションに向かっていた時とは、様子が変わっていた。

少し前を歩く先生。

少し後ろを、俯き加減に歩く私。

周りには私たちって、どう見えてるんだろう。


「藤沢。」

ふいに呼ばれて、ハッと顔を上げた。

「ここ真っ直ぐ行くと、駅。」

「ああ……はい。」

私は先生の前に出た。