私は近くに置いてあった原稿用紙を見た。

何か文章が書いてある。

「……小説?」

煙草を吸って煙を吐き出した先生は、小さな声で答えた。

「ああ。」


まだほんの1枚の原稿用紙しか見てないけれど、先生の字は野性的で男らしかった。

「さっき本屋で言ってたやりたい事って、この事?」

先生はまた煙草を吸って、煙を吐き出してまた吸って、今度は長く煙を吐き出した。

「ああ、そうだよ。」


意外だった。

先生のやりたい事が、小説を書くことだったなんて。

でも国語の先生だったのだから、案外似合うかも。

なんて、自分勝手に想像し。

私は手に持っていた原稿用紙を、床に置いた。


「今はどんなお話を書いているんですか?」

先生は拾い集めた束の原稿用紙を見つめた。

「大した話じゃないよ。」


弱々しい言葉。

それは先生の夢が叶うまで、道が大分遠い事を私に教えてくれた。