車が走り去った後、先生は私の手を握って、自分の車まで、連れていってくれた。

「先生。ごめんなさい。」

謝って済むことじゃないのかもしれないけど、私はとにかく謝った。

「いいんだ。そんな事。」

「先生……」

顔を上げて、ニヤッと笑う先生に、ホッとする自分がいた。


「それにしても、」

先生は自分の車に手を付きながら、得意げに言った。

「ちょっとドラマチックなシーンだっただろう?」

「はい?」

予想外の発言に、憂鬱な気分が一気に吹き飛ぶ。


「他の男に連れて行かれそうな時に、助けに入るヒーロー。ってか?」

「全然違うシチュエーションです。」

「そうか?」

首を傾げながら、先生は私に車に乗るように指示した。


「結構カッコ良かったと思うんだけどな。」

不貞腐れながらも、今の状況を楽しんでいる先生が、そこにはいた。

「小説に使えそう?」

「うんうん。って言うか使う。葉山には悪いけれど。」