すると母は、私の肩に手を乗せた。

「そんな事は、今後一切言ってはいけませんよ。私達はもうそなたを、本当の娘だと思っているのですから。」

「はい。申し訳ありません。」

頭を下げて謝ると、父と母は、私をじーっと見つめた。

「はぁー。本当に、あなたの位が高ければ、宮中に入れたものを。」

母は、大きなため息をついた。

「まだそんな事を言うのか。」

父は、位が低い事を、気にしているみたい。


私はそれでもいい。

いっそ、あの美しい方と、住む世界が違うと思っていた方が、夢を見ずに済む。

私は、あの日。

帝のお顔を見てから、それを忘れる事ができない。

また、お会いしたいと思うのは、夢のまた夢の話なのだ。


「なんだか姫は最近、物思いに更けているようですね。」

母は、私の心配をしてくれた。

「橘の姫君が、入内すると聞いてから、ため息が多くなったと思うのですが。」

私は、作り笑いをした。

「心配なさいますな。妾は大丈夫です。」


まさか、あの美しい人に、恋焦がれているなど、口が裂けても言えない。