帝は、ちらっと私を見て下さる。

もしかして、私の事を覚えて下さっている?

でも、雑士女の私は、直接帝と話す事なんてできない。

ああ、悩ましい。


そして帝と結子様が、仲良く庭をご覧になっている。

その様子が、とても睦まじくて、私はまた胸が痛んだ。

私は結子様にはなれないのに。

もう、諦めなければならないのに。

そう、自分に言い聞かせる。

しばらくすると帝は、公務に戻って行ってしまった。


「あっという間だったわ。」

厚子は、夢から覚めたみたいに、ため息をついた。

「私にも帝みたいな素敵な公達が……」

「来て下さるといいわね。」

私達はそう言って、笑い合った。


そんなある日の事だった。

掃除の仕事も早く終わって、その日は結子様は局を留守にしていた。

当然女房達もお付きで行ってしまって、局には私と厚子だけが残った。