「父上、駄目だったのですから、もういいでしょう。」

私は立ち上がって、部屋を出ようとした。

「誰が、駄目だと申したのですか?」

振り返ると、結子殿が私の方を見ていた。

「今、あなた様が帰れと。」

「試したのです。さあ、そこへお座りになって。」

何が起きたのか分からずに、また結子殿の前に座ると、彼女は笑っていた。

「手を返して、帰りましょうと言った姫は、あなたが初めてです。」

「他の方は、帰らなかったのですか?」

「そうね。皆、雑士女になりたいからでしょうね。」


不味い事をしたかもしれない。

私は、バツが悪かった。

「はる殿は、雑士女になりたくないの?」

「正直、雑士女という仕事は、どんな物かは分かりません。」

するとまた結子殿は、笑っている。

「私の局の掃除をするだけよ。帝がいらした時に、綺麗にしておく為にね。」

なんだ、掃除婦か。

ちょっと、がっかりした。

「どう?私と一緒に、宮中へ行ってみない?」

父は、ハラハラドキドキしていた。

「はい、誘って頂けるのなら。」

私は、父の顔を立てて、そう答えた。