蒼太の死を知ったのは、数日前のことだった。

 ベランダで肩を並べた私たちは、まるで弔いのように、彼の好きだった星空を見上げていた。

「私のせい……だよね」
「──違うって」

 何かを振り払うように、陽介が首を振る。

「蒼太の母さんが、病気が原因だって説明してくれたよな」
「だけど。私たちがあんなことをしなければ、病状が悪化することはなかったかもしれない」

 目尻から涙があふれたのと同時に、流れ星がスッと夜空を横切った。


『ずっと好きだったんだ、さやかの笑った顔』

 遠回しの告白のあとで。

『あっ。でも、返事は要らないから。まったく、要らないから』

 なぜか、蒼太は急いで付け足した。

 今思えば。病気を隠していた彼は、先は長くないと知っていたために、返事は必要ないと言ったのだろう。
 あと少しで両想いになれたところだったのに。


 曖昧な、恋人未満の関係が続く中。
 蒼太の気持ちをはっきりさせたかった私は、彼を試すつもりで、彼の親友の陽介とキスをした。

 陽介にとっては軽い気持ち、遊びのキスだったのに。
 それを蒼太に見られていて。
 彼の容態が悪化したらしく。

 その一週間後に、蒼太の命は消えてしまった。

 私たちは蒼太に、二重の苦しみを与えていたことを知った。
 ただでさえ、病気で辛い時期だったのに。さらに苦しませてしまった。
 それなのに、彼の死が自分たちのせいではないと思い込もうとしていたのだ。

 このことは私と陽介、二人だけの秘密。

 いっそのこと、誰にもばれないうちに、私も星になりたいとさえ願った。


「また、流れ星……」

 二度目の流れ星を目撃したあと、不意に思い出す。

「──あ。蒼太の花壇に、水をあげるの忘れてた」
「……そういえば、そうだったな」

 自然が大好きで、草花を育てるのが趣味だった蒼太は、緑化委員に入り、花壇の手入れをしていた。

『さやか。花の水やり、俺の代わりにお願いできる?』

 まるで、私が蒼太の後を追おうとしていたことを、先回りして止めてくれたかのようだった。

 蒼太の優しさは、彼の命が消えても続いている。


「ほら、もう行くぞ。明日、早起きして水やりするんだろ」
「……うん」

 私の方へ手を差し出した陽介は、ハッとしたように星空を仰いだ。

 こちらに伸ばしかけていたその手を、無造作に制服のポケットへしまう。

 気づかないふりをした私も、彼につられて、夜空に浮かぶ星をさがした。


 ──繋がれない二つの手。

 これから先も、陽介とは結ばれることはないだろう。

 だけど、私たちの絆が消えることはない。
 あの秘密を心に刻んだまま、歩いていく。

 蒼太の好きだった星を、目に焼きつけながら。



 -End-