事件からしばらく、後宮は落ち着かない日々が続いた。
麗景殿の床下から呪詛の札が見つかった。呪詛は癖のある左大臣の字で書かれていた。本人が書かなければ呪いは叶わない故に、そのまま動かぬ証拠となったのである。
東宮に毒を盛った罪と冬野中納言が捕らえられ、左大臣が呪詛の罪で、薄野ともうひとり弘徽殿の女房も捕えられた。
それでもやはり薄野は毒とは知らなかったらしい。
粉薬を渡されて、冬野中納言は自分のお茶に入れて飲んでみせたという。薄野もひと口飲んでみたけれど何も起きなかった。だから安心して東宮の汁物に混ぜた。本人も気づかないうちに利用されていたのだ。
小雀がどうなったか心配で泣いていたところを笹掌侍に声をかけられたらしい。
冬野中納言にいいように使われたのは薄野だけではなかった。
女官にも何人かいて、彼女たちは宿下がりの時に冬野中納言の邸に行っていた。いつかこの邸で正妻になどと言われて、自分だけが特別だと信じていたとか。
弘徽殿はひっそりと静まり返り、なんとなく暗い空気が漂う中、小雀は宮中に戻った。
「左大臣は大宰府に流罪だそうよ。冬野中納言も流罪ですって。まあ流罪で済んで感謝すべきよね」
と、笹掌侍が溜め息をつく。
「それにしても冬野中納言に恐ろしい裏の顔があったなんてねぇ。まさかそこまでとは思わなかったわ」