むしろそのほうがいい。小雀が死んだとしても、彼はきっとその死を無駄にはしないはずだ。原因を突き止めて、冬野中納言を追及してくれるだろう。

 そうすれば、少しでも京は浄化される。

(私ができるのはそれくらいだもの)

 優弦はなくてはならない人だ。
 本人はそれがわかっていないようだけれど、と思い、小雀はくすっと笑う。

 冥途の土産に、彼の恋人だった想い出ができてよかった。

(――幸せな恋をしたんだもの)


 扉が開く音に小雀は振り返った。

「食が進まないようですね」
 不敵な笑みを浮かべるのは冬野中納言。

「なかなか手に入らないのですよ? 鮑も()も貴重なのに」

 小雀は何も答えない。

「その手の怪我はどうしたんだい? 実は最近うちに夜盗が入ってね、その時に手を切っているはずなんだよ。しかも女だと言うじゃないか」

 やはり報告は聞いていたらしい。
 男には傷を負わせたが命に別状はないはずだと佐助から聞いている。ほっとした半面、手を切ったことやひとりは女だったことがわかってしまう懸念があった。

 口を結んだまま何も言わない小雀を見て冬野中納言はくすっと笑う。

「まあいいでしょう。証拠はどうせ処分しているでしょうからね。それに刀には強い毒が塗ってあったはずなんだ。そんなふうに無事でいられるはずがない」

 小雀は背筋がひやりとした。

 ――毒?