驚きのあまり悲鳴をあげそうになるとますます口で口を塞がれて、そのうちなんだか気持ちよくなってうっとりとして。子が出来たらどうするんですかと抗議をすると笑われた。

『口を重ねただけじゃ、子はできないよ』

 小雀は男女の睦事はよくわからない。

 全く興味がなかいわけじゃないけれど。どこかで馬鹿にしていたと思う。貴族の男って女みたいと笑っていたのだ。
 蹴鞠が上手いよりも、馬に跨って風のように疾走するほうが素敵だと思うし、束帯姿で気取っている貴族より、細身の黒装束のほうが恰好いいと思っていた……。

 でも彼は男らしくて頼もしい。
 束帯だけじゃなく黒装束も着こなして、屈強そうな男にも負けていなかった。

 抱きすくめられて、もがいてもびくともしない。
 触れた胸は逞しくて、自分が急に弱くなった気がした。

 彼こそ貴族の中の貴族なのに。強い。

 ――そんなのずるい。

『うれしいな。小雀は。男と女のことを何も知らないんだね』

「そうよ、知らないのよ」と独り言ちる。

 体を寄せ合ったまま、あんなふうに何度もかわいいなんて言われたら胸が苦しくなって、頭の中だって痺れたようにぼぉっとしてしまうじゃないのと、脳裏に浮かぶ彼に文句を言ってみた。

『私が嫌いか?』と彼は言う。
『嫌いです』

『それにしては、蕩けそうな目をしているぞ?』
『そういう意地悪なところが――』