ところが優弦の話によれば、一時は熱も高く危険な状態だったという。

 当初、毒が疑われた。
 毒見役の女官は何ともないらしいが、彼女は大人だ。幼い東宮と反応が違う場合もある。

 帝から急ぎ清涼殿に呼ばれた優弦は、東宮が飲んだという汁物を口にした。
 彼の研ぎ澄まされた舌は微量の薬草を感じ取り、その事実は晃子さまと一部の側近の女房だけに伝えられたらしい。

 表向きでは、小雀が聞いている通り季節の変わり目による体調不良となっている。
 状況から汁物に毒を混入させた疑いのある者は、麗景殿の女房数人に絞られた。犯人を特定すべく、優弦は自ら麗景殿に忍び込むのだという。

 何も彼が忍びのようなまねをしなくてもと思うが。

『信用できる者が少ないのだ』
 彼はそう言った。

『私がいるじゃないですか』と言えば、『あなたはおとなしくしているのが役目です』と叱られた。

 とまあそんな事情により、小雀は恋人役を引き受けたのである。


 貞観殿に行くと、ちょうど笹掌侍がいた。

「はいどうぞ。甘い策餅ですよ、珍しいでしょ」
「あら、ありがとう」

 例によってそのまま笹掌侍の局に行った。
 策餅を食べながら、晃子さまの畳を変えたい話を伝えたり、人気の物語が手に入った話をしたあとで、笹掌侍が「それにしても」と、しみじみとため息をついた。

「小雀が好みとはねぇ。まあお似合いだとは思うわよ」