さすが噂好きの弘徽殿。ゆうべ通りかかった女官が弘徽殿の子だったのだろうかなどと思っていると、どうなのよと肩を揺すられた。
「理由があるんでしょ? 絶対おかしいもの!」
「は?」
絶対とは失礼な言い草だ。確かに嘘の恋人だけども、そこまで言われると聞き捨てならない。
小雀はにやりと口元を歪めた。
「私はね、お断りしているんですよ? でも月冴の君がぁ」
唇を尖らせて、困っているとばかりに肩をすくめて見せた。
「嘘おっしゃい!」「そんなこと言ってあなた、本当は誰かの隠れ蓑なんじゃないの?」
ふたりとも鬼の形相だ。
「そんなに信じられないなら、月冴の君から頂いた恋文をお見せしましょうか?」
大きくため息をつきながらそう言うと、女房ふたりは悔しそうに小雀を睨み、きりきりと歯ぎしりをして弘徽殿に戻っていく。
これで火種は十分。今日中には月冴の君小雀と熱愛という噂の炎が宮中で燃え盛るだろう。
なにしろ急を要する。
優弦には、今夜からでも後宮に通いたいという事情があった。意味もなく恋人宣言をしたわけではないのである。
『東宮が伏せっているのは知っているだろう?』
小雀が宿下がりをしている間に、東宮が体調を崩したというのは聞いているがそれ以上は聞かされていなかった。この時期になると東宮は食が細くなるから心配はないと言われていたのだ。
「理由があるんでしょ? 絶対おかしいもの!」
「は?」
絶対とは失礼な言い草だ。確かに嘘の恋人だけども、そこまで言われると聞き捨てならない。
小雀はにやりと口元を歪めた。
「私はね、お断りしているんですよ? でも月冴の君がぁ」
唇を尖らせて、困っているとばかりに肩をすくめて見せた。
「嘘おっしゃい!」「そんなこと言ってあなた、本当は誰かの隠れ蓑なんじゃないの?」
ふたりとも鬼の形相だ。
「そんなに信じられないなら、月冴の君から頂いた恋文をお見せしましょうか?」
大きくため息をつきながらそう言うと、女房ふたりは悔しそうに小雀を睨み、きりきりと歯ぎしりをして弘徽殿に戻っていく。
これで火種は十分。今日中には月冴の君小雀と熱愛という噂の炎が宮中で燃え盛るだろう。
なにしろ急を要する。
優弦には、今夜からでも後宮に通いたいという事情があった。意味もなく恋人宣言をしたわけではないのである。
『東宮が伏せっているのは知っているだろう?』
小雀が宿下がりをしている間に、東宮が体調を崩したというのは聞いているがそれ以上は聞かされていなかった。この時期になると東宮は食が細くなるから心配はないと言われていたのだ。