隣に座るとずりずりと寄って来て、肩を抱き、恋人のふりのわりには随分と本格的で、近くを通る女官が見えた時には、これ見よがしに小雀の頬に手をかけた。

『やめてくださいよ。近寄りすぎ! ちょっと離してっ』
 礼を言うはずがそれどころではない。じたばたともがく小雀を抱きすくめる優弦に襖の陰に引きずり込まれた。

『ここなら見えないよ』と言われたけれど、そういう問題じゃないのに。


 もう一度あくびをして、小雀はとぼとぼと簀子を進む。
 女蔵人に用事があって貞観殿に行くところだ。

 もし笹掌侍がいたらゆうべ月冴の君にもらった唐菓子をあげよう。甘い策餅(さくへい)なんて珍しいからきっと驚くわね。などと思ってくすっと笑う。

 胸元に挟み込んだ包みから漂う香ばしい匂いに鼻をぴくぴくさせていると、「小雀、小雀!」と後ろから呼ぶ声がした。

 振り返れば弘徽殿の女房がふたり、ばたばたと大きな音を立てて簀子を走ってきた。
 十二単の袖をはためかせるほどの慌てぶりだ。

「ちょっと小雀! 嘘でしょ?」
 いきなり腕を掴んでくる。

「な、何ですか? 怖いですよ」
「月冴の君と恋仲ってどういうことなの?」「ただの噂よね? 嘘なんでしょ?」
 ふたりとも食いつきそうな勢いだ。

「え?」
(もう知っているの?)