薄野は何も疑問に思わなかったようだ。小雀はあわてんぼうだから気をつけてと、笑った。

 少しすると何やら賑やかな笑い声が聞こえてきた。
 どうやら優絃が来たらしい。
「小雀、こっちに来てご覧なさいよ。月冴の君が沢山の紙をくださって」

「まあ、なんて美しい」

 目にも鮮やかな料紙の数々だ。
 薄様の他に墨流しなどの模様が入ったものや、金や銀の箔を散らしたもの。鳥の下絵や、漉(す)き模様が入ったもの。様々な料紙が並べられている。

「これで、物語の写しを作りましょう」
「そうですね!」

 宮中の奥深く、ひっそりと暮らしている女性たちにとって、物語を読むのは貴重な娯楽だ。
 晃子さまも物語が好きである。
 体調が優れない東宮の心配もあってお疲れだ。ゆっくり楽しんで頂くためにも写しがほしいけれど、紙は貴重品。

 またとない贈り物に喜び勇んで紙を選り分けていると、几帳の向こう側から「気に入ってくれたかな?」と優弦の声がした。

「素晴らしいです月冴の君。またよろしくお願いします」
「これ、小雀」と、先輩女房に窘められた。

「何が好まれるのかわからなかったので、色々持ってきたのだよ」
「どれもこれも本当に美しくて素敵です!」
 ええ本当にと、周囲の女房からも声が続く。

「そう言ってもらえるなら良かった」

「本当にありがとうございます。私からもなにかお礼をさせてくださいませ」
 御簾の中からの晃子さまも答えられた。