最初のうちは何事かと覗き込んでいた小雀も、ひと月ほど経った今では見慣れた光景に、元気でなによりとやり過ごしている。
 でも、さっきのやりようは酷かった。寄ってたかって取り囲み、争いではなく、ただの虐めだ。
 麗景殿に戻っても怒りは収まらない。
 どうしたのと聞かれて騒動のあらましを報告すると、先輩女房らの顔も見るみる赤くなっていった。

「んまあ、小雀が怒るのも当然よ!」
「信じられない! 弘徽殿の女房は本当に意地が悪いわ」

 騒動のほとんどは弘徽殿の女房が原因なのである。彼女たちが憤るのも当然だった。
 今回の被害者は、女官で最も美しいと言われている内侍司(ないしのつかさ)笹掌侍(ささないしのじょう)
 なにがあったのか、髢が落ちてしまったらしい。
 彼女はもともと髪が薄かった。自慢の黒髪は髢で増量していたと知って、弘徽殿の女房らがここぞとばかりに囃し立てたのだ。

「私、届け物ついでに笹掌侍の様子を見てきますね」
「かわいそうに。小雀、これを笹掌侍に持っていってあげて、気が紛れると思うから」
「私も、これを」

 力いっぱい「はい!」と答えた小雀は色鮮やかな十二単の袖を翻し、早速、託された冊子を抱えて麗景殿を出た。


 意気揚々と簀子(すのこ)を進むと、行く手の角から公達が現れた。