皇族にはお毒見の係がいる。
 けれども、実際毒見で誰かが倒れたなんて恐ろしい話は聞いたことがない。

「――そんな話。初めて聞いたわ」
「当然よ。秘密だもの。ご存じなのは主上と月冴の君の側近だけよ」

 最後に笹掌侍は『弘徽殿の動きには充分注意よ』と囁いた。

『隙を与えては駄目。晃子さまと月冴の君の噂は、おふたりを切り離すための布石だと思うから』

(そんな事情が……)
 にわかに信じがたい話だと、小雀は悩んだ。

 彼はいつだって明るくてふざけているようにしか見えないし、命を狙われたことがあるような暗い影なんてどこにもない。
 信じられないけれど、笹掌侍がわざわざそんな嘘をつく理由もないと思う。

 毒なんて、誰が?
 笹掌侍の口ぶりから察するに、左大臣が怪しいのだろうか。

 優絃と左大臣は叔父と甥。関係は良好なはずだ。と言っても、本当のところはわからないけれど……。

(毒を飲んで体に慣らすほど、危険に晒されているなんて)


 数日後、届け物があって清涼殿に行った小雀は、優絃と出くわした。

「おや、小雀」

 笹掌侍から話を聞いたばかりなので、いつものように反抗的な態度をとる気持ちにはなれなかった。

「こんにちは」

 何気なく彼の手元を見ると、絵付きの冊子が見えた。