少しも楽しくない。

 いつものように変わらぬ飄々とした様子になんだか意地悪がしたくなって、小雀は優絃の長い下襲を踏んでやった。
 転べ転べと念じたところで彼はびくともしない。
 立ち止まり「こら、悪戯は止めなさい」と軽くいなすだけだ。

「仕返しですよ。鞍馬で踏んだじゃないですか」
「うわっ、執念深い」
「そうですよ。私は執念深いんです。生霊にもなっちゃいますから気をつけてくださいね」

 優絃は目を細めて笑う。
「小雀の生霊なら毎夜でも逢いたいな」
 そう言いながらぽんぽんと小雀の頭に手を乗せて微笑んだ彼は、渡廊を戻っていく。

(だからそういうことを言わないでくださいよ。誤解されちゃうでしょう?)
 溜め息をつきながら、小雀は彼の背中を見送った。