優絃は笑みを浮かべながら、力強く頷いた。

「信じて、あとのことは任せなさい」

 彼は齢二十二にして大納言の地位にある。朝議にも参列する立場にいるので言い切るからには本当に何かするのだろう。
 悲田院や施薬院が庶民を救ってくれるなら、それに越したことはない。とてもとても素晴らしいと思う。

 けれども、その上で紅鬼子が足りないところに手を差し伸べられたら、もっと……。言ったところで止められるだけなので、そっと心にしまうしかないけれど。

「そういえば、今朝の大立ち回り。近くにいたのですよ、何の騒ぎかと聞けば」
「えっ!」
 あははと優絃は顎を上げて笑う。
「その場で見たかったですね。『(かもじ)の何が悪いのですかっ!』」

(またそういうことを。地獄耳め)
 怒ればますます笑われるとわかっていても、眉をひそめずにはいられない。
 それが悔しくてぐっと唇を噛んだ。

「宮中でのあなたの大活躍も私の耳まで届くのですから、せめて、宮中を離れた時くらいはおとなしく、ということですよ」
 夜盗たるもの目立ってどうするとでも言いたいのだろう。痛いところを突かれて、ついつい頬が膨れ上がる。

「いいですね」
「はい。わかりました……」
 冊子を小雀の手に戻して、優絃は「では」と背中を向ける。

 いつもそうだ。
 彼に声をかけられた時は叱られるか、注意されるか、からかわれるか。