「そうしてくれると助かるな。気が気じゃないのでね」

 でもわかってほしかった。
「――私たちを待っている人がいるんです」

 薬さえあれば助かる子供を泣きながら見守る母。今日明日の食事にも困っている子供たち。脳裏に浮かぶ人々を思うと、居ても立っても居られなくなる。宮仕えで頂く俸禄は、今後も配るつもりでいるけれど、それだけじゃあ足りない。

 ちらりと見上げた顔には、苦笑が浮かんでいた。

「きりがないとは思わないのですか?」
「思いますよ、そりゃ。配れる量なんてたかが知れていますし。でもね、どんなに細やかでも、その人にとって希望になれるかもしれないでしょう?」

「希望?」
「明日への希望ですよ。自分を気にかけてくれる知らない誰かがいる。それだけで、私だったらうれしいです。もうちょっとがんばってみようかなって思えるくらいは」

 だって紅鬼子はそうしてもらったうれしさから生まれたんだもの。

「心配せずともよいですよ。夜盗取り締まりと同時に、悲田院や施薬院(やくいん)の強化を朝議にかけますから」
 悲田院は貧しい人や孤児を救うために、施薬院は怪我や病気で苦しむ人を救うための施設だ。

「でもあそこは……」
 荒れ放題で体をなしてはいない。
「確かに今は捨て置かれています。だが、なんとかする。そのための準備を進めてきましたのでね」

「そうなのですか?」