小雀だってそれはわかる。わかるけれども、それでは貧しい人々に配ったりできないという不満が燻ぶるのだ。

「でもどうして唐三彩のことを月冴の君はご存じなのでしょう。闇烏から聞いたわけですか?」
「ええ。闇烏がそのように教えてくれました」
「へえー」
 嘘ばっかり。

「公卿さまなのに、随分怪しい人と仲がよろしいんですね」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですからね。世の中怖いですし」
 そう言ってにっこりと口角を上げる優絃を、小雀は怪訝そうに睨む。

(なにが怖いのよ、あなたのほうがよっぽど怖いわ)
 公卿で神出鬼没で京の闇で何が起きているか知っているなんて、どう考えても普通じゃない。

 冗談はさておきと、月冴の君は声色を変えた。
「本当に止めなさい」と言う口調は厳しく、ちらりと見た小雀を見下ろす目は真剣そのものである。
「次は捕まりますよ」

 小雀はうなだれて、あきらめたように小さくため息をついた。
 検非違使に密告されても証拠を残すようなへまはしていないつもりだけれど、絶対大丈夫とは言い切れない。

 彼は、本気で紅鬼子を心配している。
 義賊だからと大目に見ているのだろうし、今まで見逃してくれているけれど、捕まってしまったら彼の配慮も台無しになる。
 小雀とて、気持ちはありがたいと思っている。それは本当だ。

「大丈夫ですよ。この前が最後ですから」