ちなみに今回盗みに入ったのは、冬野中納言の屋敷。あの男は受領(ずりょう)を騙して、唐の国から海を渡ってきた陶器の逸品、唐三彩(とうさんさい)の偽物を、本物と偽って売った。
 中納言は本物を持っている。それを元に奈良の陶工に贋作を沢山作らせて、あちこちの受領に売りつけているのである。

 荘園での評判も悪い。農民たちは重税に喘いでいるというのに、本人は贅沢三昧という悪人だ。
 小雀が盗んだのは本物の唐三彩と受領からせしめた砂金。
 それのどこが悪いというのか。
 本物は本来買ったはずの受領に渡しただけだし、砂金は全て薬草や食料に替え、市井の貧しい人々に配った。

 悪事を働いた意識など毛頭ない小雀は、不満を隠そうともせずへの字の口になる。

 腹立たしいことに、冬野中納言はなぜか宮中ではいい人で通っていた。
 一見爽やかな見た目もあるかもしれない。道端の貧しい者に食料を配ったとか、寺社にお布施を怠らないとか、誰にでも優しいとか。表の顔と裏の顔を使い分けているのである。
 それも小雀には許せない。

「とんでもない奴なのに」
「それでも、悪いことです」
 優絃はぴしゃりと言う。

「受領に偽物だと教えてあげれば済むことでしょう?」
「それは、そうですけれど……」と声は小さくなる。