闇烏の文には、宮中に来るようにとあり、誘われるようにここまで来たけれど――。



「小雀」と声をかけられて我に返る。

 〝さえづき〟は、冴え月。月冴の君、この人だった。
 記憶をめぐっているうちに、随分先まで歩いていたらしい。人けのない渡り廊下まで来ていた。

 立ち止まった優絃が小雀を振り返って、大きなため息をつく。
「まったく、あなたという人は。おとなしく休むために宿下がりをしたと思えば、相も変わらず仕方のない人ですね」

 心当たりはあったものの、小雀はつんと澄ましてしらばっくれた。
「なんのことでしょう? 私にはさっぱり」
「そうやってとぼけても駄目ですよ。あれほど警告したのに」

 実は宿下がり中に一件だけ盗みに入った。
 用心に用心を重ねていたのになぜバレたのだろう。
 この男はやっぱり謎だと思う。

「もうやめなさいと言いましたよね? 盗みに入られた者たちが、声を上げ始めましたよと」

「よくそんなこと言えたものだわ、恥知らず!」
 思わずそう言い捨てた。
 盗みに入った家は、どこもろくでなし貴族ばかりだ。