先輩は自分が亡くなっている事に全く気付いていなかった。
あのバス停は一路線しか走っていないし、時々先輩と一緒のバスになった事もあるから、私が乗るバスに先輩が乗らないという事はありえなかったのだ。
乗れなかったという事は、あの場所からずっと動けないからじゃないかと思う。
だから、また会えるのではないかと思って、事故が起きたあの時間にあわせて私はバス停に行った。
でもあの日以来、晴れていても雨が降っても永瀬先輩に会う事ができなかった。
あの日の出来事が夢だったのではないかと考えた事もあったが、あの日先輩に貸した傘が行方不明のままなので、絶対に夢ではない。
悲しいけれど、どちらにしても、先輩がこの世に存在していない事実は変わらないのだ……。



「すず、間に合いそう?」
「大丈夫、余裕で間に合うよ」

七月に入り、梅雨が明けて夏の日差しがきつい日々。
コンクールに向けて、キャンバスに描いた絵に着色する作業に入っていた私。
美波は昨日、絵を完成させたらしく、私の進行状況を心配してくれている。