彼はわたしを可愛がり、そして甘やかした。
 幼い妹をあやす、少し年の離れた兄。
 そんな感じだった。
「エイミーみたいな妹が欲しいって、ずっと思ってたから、一緒にいられて嬉しいよ」
 そんなことを言われるとちょっとくすぐったい気持ちになった。
 わたしも兄ができたようで嬉しかった。

 そう。知り合ったばかりのころの彼への気持ちは、恋愛感情というより、肉親に対する親愛の情に近かったように思う。
 
 目を見張るようなハンサムだったわけではない。
 でも、芸術に一生を捧げる決意をした人特有の、超俗的な雰囲気を持っており、それが彼を何倍も魅力的にみせていた。
 
 とくに、楽器を手にしたときのカッコよさは無類だった。
 複雑なキーやレバーを自在に操るさまは、鮮やかな手品師の絶技のようで、わたしの目はいつも釘付けになった。

 他にお客さんがいないときはいつも、演奏してくれとねだった。