車を降りて、杉木立をの階段を
登ると、意外にも山頂に
露道が幾何学にのびる
前庭に出る。

ずっとその奥に 朱色の鳥居が
見えて、
鳥居を潜ると本堂があった。


『亡者の熊野参りといいまして、
人は亡くなり魂になりますと、
こちらの寺にやってくるのです』

そして2人の女が、
フワフワウェーブヘアの
パピヨン犬みたいな
女から、説教ならぬ、説明を
受けて 阿弥陀如来の
前に正座をしていた。

『 枕飯を3合炊く間にです、
分かります?枕飯?亡くなった
方にお供えするために、
わざわざ屋外で炊いた白米を、
椀に高盛にしまして、箸を垂直に
立てたモノが、枕飯です。』

板床に正座をする2人の足は、
後ろからみれば、
ムズムズと忙しないわけで。

『でも考えてみてください。何故
1合ではないのでしょう?
昔の1膳飯とは、お嫁入りの時、
お引っ越しと、戻らない旅立ちで
出されてきました。 ましてや、
死出の旅。故人の最後の食事。』

足の痺れは最高潮と予測される。

「あのー、で、
貴女様は、どなたさま?」

黒髪ポニーテールの女が、
片手を肘から綺麗に90度に挙手。

『ですから、現在は1合だけ、
もしくは 必ず椀に入れきる為に
椀に擦り切りいっぱいだけ炊く
のです。それを、こちらの伝承
では、3合炊く間と云われる。』

難なく、

ウェーブヘアを
ライトブラウンにカラーリング
する、パピヨン犬女は、
黒髪ポニーテールを無視した。

「はい!『黄泉の入り口』って、
言われるからやわ!死出の旅に
食べる弁当にせんと!ダルに
やられたら、たまったもんじゃ
ないし。ひもじい!です!」

本堂の天井に届く勢いで、
今度は
パーマっ毛ショートヘアの女が
手を挙げて答えた。

「えー?!あんたー、ここで、
そんな感じ?ないって、これ」

そのショートヘア女に、
ポニーテール女が ツッコんだ。
が、ウェーブヘア女が、
ショートヘア女をビシッと指さす

「はい!いい着眼点!古来の葬法『殯ーもがり』では 復活の
呪術的儀式でした。そもそも、」

そもそも?

ウェーブヘア女が急に云い澱むと
説明されていた2人が
不思議な顔をする。

「、、、とにかく、
黄泉へ帰りと、蘇りの考えが
古道には色濃くあって、
魂となると 枕元のシキミを
1本持ち、
魂はこの寺に詣でるのです。」

ウェーブヘア女は、
なんでもないと 話を繋いだ。

「鐘を1回のみ鳴らし、
シキミをさらに先の奥ノ院、
浄土堂に供えて、
大雲越えの道を歩いていく。」

さらに聞いた言葉に、
一瞬 ショートヘア女の肩が
ビクリと動いた。

「え、それってさっきのん、、」

嫌やわ、冗談ひどいわぁと、
自分の両肩を手で抱く。

「ですからこちらの寺の鐘は、
時折、誰も居ないのに、音を
鳴らし、魂が供えるシキミで
奥ノ院の辺りは山中にシキミが
群生していると云われるのです」

じゃあ、貴女も
その音を聞いたのですね?と
ウェーブヘア女が
ショートヘア女に問う。

「いぃーややわあぁ。冗談ね?」

ウチ、リアリストやから一応。
やめて欲しいわと、
ショートヘア女が答えれば

「あなた、さっき、『ダル』
言いましたよね。妖怪ですよね」

ウェーブヘア女が追い討ちをかけて、ニコッと笑った。

「そういうわけで、
貴女達が、足を踏み入れようと
する古道は、極楽浄土の地。
入るには、
『葬送の作法』を行わなくては
なりません。
貴女達は、そのままにして死し、
浄土にて悟り、生まれ変わる。
そして、また生きる場所に無事
帰ってくる。わかりましたか?」

「「・・・・・・」」

暫く2人が喋らないのを見て、
ウェーブヘア女が

「では、わたくしは失礼します。
あ、ご住職には わたくしが、
ご挨拶しておきますので。
では、余り軽々しく道中を
行かれませんように。では。」

本堂の板床に置かれた椅子から
立ち上がる。

「あのー、そーれーでー、
貴女様は、どなたさま?」

ポニーテールの女が、再び
片手を肘から
綺麗に90度に挙手をする。

「はい!お寺さんの世話役!」

でしょ?っと
本堂の天井に届く勢いで、
ショートヘアの女も
手を挙げて ワトソンよろしく
推理の答えを求めた。

ウェーブヘア女は、
パヨン犬みたいに可愛く首を
傾げて、

「只、こちらの檀家さんに、世話
になっているだけの、
人形師。 ドール職人ですわ。」

意地悪く微笑んだ。

「「ドール、職人」」

「はい。ドール職人です。
あと、お二人だけ正座させて、
悪かったですけど、 許して
下さいね。
わたしの片足、 義足なので。」

そう言うと、ウェーブヘア女は
片足を挙げてみせる。


「「義足、、」」

ポニーテール女とショートヘア女
は、おうむ返しに返事するだけで、
この状況を処理した頃には、
住職に、女3人で古道を
歩く事を勧められて、

幾何学な露道の前庭を出て、
駐車場の車に戻ったのだった。

寺に宿坊はなく、
この時間に、タクシーは
山を上がらないと、付け加え
られて。

気が付けば、女3人で古道へ。