離陸した水陸両用ヘリコプターは
順調に
冬の晴空を
海沿いを飛んでいた。

『あ、シオンくん?はい、無事
ヘリでぇそっち向かってる
よん。うん、ちょ~っとハプニン
グ。さっきも言ったけど、
緊急で水難者2人の対応。
うん、先生に連絡してる?
救助搬送ねぇ。よろしくね~』

広くない機内。
パイロット以外は、
ハジメと海に浸かった3人のみ。

『うん、占いの先生にはボクから
また電話するよん。無事捜索者
発見できたってぇ。凄いよねん
ホロスコープでさあ、アート?
何か出来ないかなぁって思っち
ゃうよねん。え?無茶苦茶?』

奇跡的に人口呼吸で
意識を持ち直した
とはいえ、
溺水した老女の様子を
ハジメは
病院に駆けつけた
ギャラリースタッフのシオンを
経由して
医師とリモート連携を
もう一台の電話を使って
行う。

『あ、マイケル嬢に電話変わろ
か?わざわざシオンくんだっ
て、マイケル嬢を探したんだも
んねぇ。本当に、そろそろボク
も、ホームに帰りたいよん。
安楽椅子で仕事したいなぁ。
え、ヨミくんがぁ?キリキリ
働けってぇ。容赦ないよねぇ。
じゃあ、変わるねぇん。』

そう言うと、
ハジメは身をよじって電話を
エマージェンシー毛布に
くるまる令嬢に
向けた。

スタッフシオンと令嬢が話すのを
ハジメは横目に
ヘリコプターの先を見ると
もう海辺の大学病院が
間近に見えて、
ホッと息をつく。

偶然とはいえ、
すぐに大学病院に搬送
できた事にハジメは
安堵した。

機体がゆっくり
着陸態勢に入る。

下には旋回の風圧に煽られながら
今も話すシオンの姿と、
もう2人の姿が
ヘリポートに見えた。

「冬の太平洋もいいけどねぇ、
そろそろ日本海恋しいかなぁ」

冬の紺碧の海を眼下に
ふと
ハジメは呟く。


紀州は旅漁師がいた集落には
彼岸の夕方になると
ハナフリと、いう奇跡現象が
起こるという。

見える者もいれば
見えない者もいる事で、
心が清ければ目にする事が
出来るとも
言い伝えられる奇跡的な
現象。

ただ、
ヘリコプターに乗るハジメは
この日、
昼間に起きた
奇跡のハナフリに
気が付くことはなく、

電話で話す令嬢を見ながら
出逢った3人の女達を
思い出すと
独り、

「現実は小説みたいに、
面白いことがあるよねぇ。」

と、
口を弓なりにした。



END

冬に花弁。
彷徨う社で君を見つけたら。
~紀州恋道忌憚~
2021・2・5~6・27
脱稿。