女性陣が
3人から4人に増えて
灯台から追いかけてきた、
クラシタとルイに合流してからは
朝食を食べながら、
突然現れた令嬢の
対応に
大わらわになった。

「いゃあ~、マイケルにこんな
ところで会えるなんてぇ、
凄い奇跡だって思うよね~」

ただ、
展望広場で留守番をしていた
ハジメだけは、
ヒラヒラと手を振って、
現れた令嬢を
当たり前のように迎えた。

「え?なんですか?ハジメさん
知ってたんですか?マイケル
さんが、ここに遭難してるの」

そんなハジメを
リンネが信じられないと
いう目で睨む。

「まさかぁ~。行方不明だって
事だけ知ってたんだよん。夏の
芸術祭でお迎えしたゲストが
再来日していたのもぉ全然、
知らなかったんだよん~。」

かくいう
3人が発見した令嬢は、
来日中に遭難をしていた
リンネのアート顧客。

「だって、作品の打ち合わせを
伸ばして欲しいってハジメさん
言ってたから、てっきり。」

そう言ってリンネは
口を閉じ、トラックの助手席を
見つめた。

とにかく葬送の儀も、
藁舟が灰へとなれば
無事に終えられ
一行は、
再び軽トラックの席と
荷台とに別れて
港に向かっている。

「彼女もぉ世界的なセレブだから
あまり教えられなかったんだよ
ねぇ、ごめんねレディドール」

ハジメが、
隣に座るリンネに
口を弓なりにして見せると、
向かいのチョウコが
指を立てて異議を唱えた。

「いや、おかしくない?ふつー、
ニュースとかなってるんちゃう
のん?失踪でも行方不明でも`

「そうやよねぇ、ニュースもして
はらなかった思うし。変やわ」

キコもチョウコに同意して
ハジメを伺う。

「そう~?マイケルの事は、
規制でもかかってるんじゃない
かなぁ。けっこう派閥とかも
いろいろあるから?でもさぁ
レディドールからさぁ、キッズ
電話で連絡もらった時はびっく
りしたよねぇ。凄いよねぇ~」

ハジメが
飄々と返していくのを
向かいで聞いていた
ルイがツッこんだ。

「いや、あんた。もっと普通、
びっくりすんだろ?え?どー
なってんだ、今の状況的に。」

「そうだねぇ。アートを生業に
しているとねぇ、わりと不思議
な事ってあるからなぁ~。」

煙に巻くように
肩をすくませるハジメに

「まあ、そうかもしれませんね。
チョウコさんと、キコさん達
みたいな人と、亡者の出逢いに
古道を歩くこと自体、
なんだか、不思議な話ですし」

リンネが相づちを打って
話を切ると、
ハジメは
令嬢の体調を確認する為
病院に搬送することを告げた。

港で
令嬢を送り出す
手筈になっている

「それは、えーけど。良かったん
?クラさん運転で、マイケルさん
助手席って、何か気まずやん。」

「そやけどぉ、マイケルさん、
荷台てわけにいかはれへんし」

灯台から迷路な集落の上を
走る道から
港に降りる途中。

チョウコが、前の運転席を
示して言うと
キコが荷台を見回して答える。

「大丈夫だよん。ペーハは彼女と
芸術祭で会ってるしぃ。それに
ボクはぁ、各所に電話しないと
ダメだからねぇ。運転は~
ペーハが1番だよぉ。カフェ
ブラザーくんでもいいけどぉ」

「何いってんだよ!オレだって
漁業組合やら、村長やら、
先輩とかに電話して許可どり
してたじゃねーか。人使い、
荒ぃーよ、あんたさぁ。」

さっきまで、
ハジメとルイはずっと電話を
かけていたのだ。

「ほんでも、めちゃすごいやん、
あたし水陸両用ヘリコプターっ
てあるのん知らんかったー。」

発見の連絡を終えた
ハジメがルイに
港の管理者へ繋ぎを乞うと、
ルイは驚きながらも了承した。
それから
ハジメがとった
手段は
水陸両用ヘリコプターだったの
だから全員が驚くしかない。

「セスナでもぉ水陸両用ってある
でしょ?今ねぇ、瀬戸内海に
エアーマリーナ構想が民間で
あってねぇ、もう運航する予定
だったんだけどぉ。このご時世
で、ストップしてるんだよ
ね。でねぇ、もともと大阪と
白浜を飛ぶ予定だから、
白浜に機体をさぁ~置いてた
まんまだっただけだよん。」

そうしてチョウコに
ハジメがウインクを投げると、
チョウコがそれを
微妙な顔で受け止めた。

「ここから、海辺の大学病院なら
10分かかりませんもんね。ド
クターヘリポートありますし。」

リンネが
間近に迫った港をみれば
海沿いの道は
横路がなく
釣り客の車が増えている。

この
目の前の港から飛び立ち、
海辺の大学病院のヘリポートに
直接、空で移動すれば
5分で到着できる。

「いやいや、水陸両用ヘリって
発想な、どっからくんだよ?
警察連絡して、救急車ってなる
だろ。事情もあんだろうけど。」

ルイが呆れているが、
ハジメが受け流し、
リンネも令嬢が自分の作品の
購入者である事を浮かべて、
どこか納得している。

軽トラックは
すぐに港に着き、
葬送の藁舟を送り出してくれた
港の管理人が待っていた。

「ほんでも、船かて漁あるんちゃ
うのん?港にて、大丈夫なん。」

「もともと、夜明け前に出た後
藁舟の事をお願いしたんで、
漁の船は帰ってないはずです」

チョウコの心配とは
裏腹に、

防波堤から突き出た
フロート桟橋にはすでに
手配された
ヘリコプターが両側のフロートを
使って羽を旋回させ
浮かんでいるのが
見える。

「にゃぁ!こんなん初めてやわ
ぁ。凄いねぇ。防波堤から
すぐ乗れるんやねぇ。」

幸いにも
午前中の港には
数名屯しているご隠居が
いつもと違う光景を
遠巻きにしているだけ。

「じゃあ~マイケル・楊 嬢。
行きましょうか。あちらに
もぉ、迎えが来てますから」

ハジメが恭しく軽トラックの
ドアを開けると、
白装束。
遍路姿の令嬢が
降りて、ハジメに頷いた。

このまま、
港の管理人にハジメと
挨拶をして直ぐに
ヘリの待つ桟橋へと

誰もが思っていた時。


『ザバーーーーーン!!』

大きな水音と

『アーーーー、、』

酷く嗄れた悲鳴、
バチャバチャと水を激しく叩く
音がする。

「「「何?!!」」」

嫌な予感で凍る面々が
音がする方へと駆け寄ると

同時に、
全員の横を駆け抜ける影が
見え、

『オケー!!!』
『ザパーーーー、!!』

一瞬で人影は港の端から消えた!

「いやあーーーーーーーー!」

とたんに
キコが狂ったように叫び
頭を両手で抱える。

海面を急いで覗く。

そこには、

面々の前の海に
溺れる老女。

さっきの人影、
助けに飛びこんだ老人が
海に溺れる老女を
抱えながら
自身も溺れそうな状態で
必死で
電話を掛けていたのだ。

『はよ!自警よべ!ガハ!
組合前ガッ!!ゴフ、、』