『ガサガサ、ブチッ、ガッガッ』

『パチン、パチッ、トントン』
『ガサガサ、ブチッ、ガッガッ』

『パチン、パチッ、トントン』

深夜
宿の土間で、
黙々と作業をする3人の女。

『ガサガサ、ブチッ、ガッガッ』

『パチン、パチッ、トントン』

「なあ、、リンネさん、、
あたし、もう、、眠いねん、」

『ガサガサ、ブチッ、ガッガッ』
『パチン、パチットント 』

チョウコがふあーっと欠伸を
豪快にすると

「うちも、限界やわぁ。あと、
どんだけ、藁まとめんのやろ」

キコの頭には藁が飛んで
チョウコもキコも目の焦点が
合わなくなっても
手元を動かしている。

「あと、少しです。だから、
飲み過ぎないで下さいって、
言ったんですよ。はい、これ」

リンネは、チョウコとキコが
束にした藁を器用に編んで
藁舟を作っている。

「人形が、3人に増えたんです
から、舟を大きくしないと、
いけなかったんですからね。
まさか、古道歩きから、ここ
まで一緒に来るとか思いません
でしたよ。はい、キコさん。」

キコに次の束を催促して
リンネは愚痴る。

「ほんでもさー、、さっきの、
お婆ちゃん、、徘徊、大丈夫
かいなーって、、思うやんなー
、、はい、リンネさん、これ」

うとうと、
自分が舟を漕ぎながらチョウコは
リンネに束を渡していく。

「でも、すぐ迎えが来て、良かっ
たですよね。昼間も車の前に
急に出てきてですもんね。よ」

チョウコからの束を、
藁舟の舳先に編み込んでいく
リンネが、答えると

「ほんでも、ちゃあんと、来て
くれるお人がおるんやもん。
羨ましいわぁ。もぉ寝るよし」

キコが欠伸と一緒に
一言繋いで、
そのまま土間に寝っ転がった。

「あ、キコさん!ここで寝ない
で下さい!あっち、上がって」

リンネが土間の先にある
フローリングのリビングを示して
キコの肩を叩く。

「幼馴染みぃ、みーんな、、
おるん、、えぇやぁん、、」

見ると、チョウコもそのまま
土間の壁にもたれて
寝むりに入っていく。

宿で用意された浴衣の上から
洗い上がった白装束を羽織って
藁作業をしていた
チョウコとキコの寝落ちを

「しょうがないですかね。朝は
早くから山の古道を歩き通し
て、海まで運転してですし。」

認めると
声を、また掛けて2人を
なんとか土間から、リビングへ
誘導する。
そして
2階から上掛けを下ろすと
2人にかけた。

「ふーっ。あと少し。」

リンネはミニキッチンに
備え付けられた珈琲メーカーから
カップに琥珀の珈琲を
注いで口にする。

結局、
港のカフェの窓から
居ても立っても居れずに
3人は『オケイ』と呼ばれる
老女に駆け寄りに出たのだ。

すると
すぐ後ろから、
港で屯する男性老人の1人が
『オケイ』の手を引いて、
港を見下ろすホームに
老女を帰すからと引き取って
くれた。

「みんなが幼馴染み、、ね」

あと一息で
藁舟を完成させる。
リンネはマグカップを置いて
仕上げの藁に取り掛かった。

『ガサガサ、ブチッ、ガッガッ』

『パチン、パチッ、トントン』

『ガサガサ、ブチッ、ガッガッ』

『パチン、パチッ、トントン』



『ガンガン!』



ふと、深夜の宿に不似合いな
音がしてリンネが音へ
目を向ける。
と、
土間から見える引戸に
人が立つ影が見えて、

リンネは
ギョっとした。

『ガンガン! レディドールぅ
起きてるよねん~?ボクぅ。』

間延びした
少しハスキーな声に、
独特の話方。

リンネは、思わず
持たされたキッズ電話を
ポケットから出して凝視する。

それから、
恐る恐る引戸に近づき

「あの、ハジメさんですか?」

不審者に声を投げる。

『イェ~ス!ギャラリスト・
ハジメだよん。レディドール、
開けてくれないかなぁ。
ペーハも居るんだけどぉ、いい
でしょ?ダメっていわれてもぉ
泊まる所ボクもここなんだよ』

そこまで言われて、
かなり 非常識でも
リンネも観念するしかない。

引戸を開けると、

「あぁ~、レディドール、
こんばんはぁ。お疲れ様だよ」

「すいません、、ユアさん。
こんな、遅くに、
すいません、本当遅くで。」

真っ白なロングコートを
闇夜に浮かばせる
呑気顔のタレ目シケメンと、

アルミケースと三脚袋を
担いだ、熊のような大男が

立ちはだかっている。

リンネは、そのまま
タレ目シケメンに向かって

「ハジメさん、あの電話って、
GPSだけじゃなくて、生態探知
みたいなのも付いてるんですか
。おかしいでしょ?
起きてるのが、わかるなんて」

非難ありだと叫んだ。

「ほら、ハジメさん、ユアさん
怒ります、遅くに、来るとか」

熊みたいな大男は
眉をハの字にしてシケメンの
脇を肘でつつく。

「そっかぁ。ごめんねぇ、ペーハ
の撮影が長引いちゃってぇ。
ほらぁ、今からさぁ手伝うよ、
藁の流し舟ぇ。って、あれぇ?
何でって、レディドールなら
深夜作業するでしょ?え?」

いまだ、リンネに
玄関先で睨まれる シケメンは

リンネの作品を扱う
ギャラリーオーナーで、
キコの元同僚

武久 一 、ハジメだ。