「リュウちゃんとこ、畑もって
たんやんか。やから、中学上が
ったらもう、家の軽トラ運転
しとったから、よう乗せてもろ
てん。軽トラや、それ以来や」

運転するリンネの横で、
チョウコが カーステレオを掛けて
ご機嫌でしゃべっている。
ラジオから流れた曲が
思い出の曲だったらしい。

「いゃあ、それやんちゃで
すむはなしやないのとちゃう?
バイクやあらへんし。
無免許やわ。なあリンネさん」

寡黙に運転をしていたリンネに
チョウコに呆れた
キコが同意を求めるが

「キコさん、バイクも高校から
ですよ。まあ、軽トラはもって
の他ですね。でも、まあ、家の
敷地内扱いってことですか?」

リンネがクールに嗜めた。

「あたしも、初め 驚いたで?
ほんでも、畑やら家ん手伝い
して、みーんな乗ってたんよ。」

「「・・・・・」」

「わかってるで、わかってる!」

後ろの座席の真ん中から、
キコは身を乗り出して肘を
シートについたポーズを
しながら 目を細めた。

「軽ぅく、治外放権やわぁ。」

「たんに、田舎あるあるです。」

リンネもそう言って
海沿いの国道を
ひたすら走らせていく。


42号線。

見晴らしのいい海沿いを走る
この道は、
半島で1番長いロード。

そして、風光明媚な観光地を、
豊かで美しい海の景色で繋いで
走る事が出来る道だ。

突然現れたギャラリスト
ハジメとカメラマンのクラシタに
見送られて出発した
藁乗せ軽トラックは

42号線を本州最南端を
まずは目指して走っていた。


「目的地には3時間半は、
かかりますよ。良かったですか」

但し、ゴールはまだ半島を
ぐるりと周った先。

日本のアマルフィと言われる

雑賀崎。


リンネが
ハンドルを握りながらも
チョウコとキコに
訊ねて
カーステレオの音を絞った。

チョウコがガンガンに掛けた
思い出の曲が終わって、
DJトークに変わったからだ。

「いゃあ、、リンネさんそれは
かまへんけど。チョウコさん!
紀州てラジオ、バナナやわ!」

後ろに座るキコが
リンネが絞った
カーラジオを指さしてチョウコの首を軽く絞める。

「ぐえっ!!って!絞まっとる
やないと! はあ。て、
キコさんとこはどないなん?
こっちはハチマルニ やけど!」

「うち?アルファステーション」

「なんや、きどってんな。」

「そりゃ、わかりやすて、ええ
どすなぁ、そちらさんは。」

キコは山谷袋からペットボトルを
取り出す。

「あの、バナナの立場は。」

それを、リンネが
ちらりとミラーで確認しつつ
キコに言うと、

「なんでバナナですのん?」

キコが水を飲みながら
聞き返す。

「877だからですよ。」

「ダジャレか!!」

「わかりやす、おすなあ~。」

チョウコがリンネの頬を
指でつついて揶揄ると
リンネが、ハンドルを握りながら
2人に叫んだ。

「もう!3時間半なんで、
1時間毎に 順番で!
運転!交代ですからね!!」

「「はあぁーい」」

呑気に
チョウコとキコが2人揃って
返事をするのを、
リンネが
ため息をついて、諭す。

「道は、このルート42を海沿いで
雑賀崎まで行きます!途中
道の駅とか、わりとお店
あるんで休憩しましょうか?」

冬の海沿いは、
たまに風が強く、車が煽られる。
それでも、古道と違って
どこまでも見晴らしが良い。

「なあ、リンネさん。さっきん、
熊みたいな人、あの人、
リンネさんの事好きやんな?」

と、いきなりチョウコが
リンネの方に
瞳をキラキラさせて聞いてきた。

「な、なんですか?急に」

「あぁ、やっぱりやわぁ。うちも
そない思ったわぁ。チョウコ
さん、気ぃつきはったのん?」

キコも後ろの席から
さらに
身を乗り出してミラーごしに
リンネの顔を見てきた。

「熊って、クラシタさんですか」

特に表情を変えるでもない
リンネに
チョウコが畳み掛ける。

「そ!なら、クラさんやな!
めちゃ、わかりやすいねん!」

「ほんまあれやし、そわそわして
リンネさんみてはったもん。」

キコもミラーの向こうで、
ニマニマした笑みを
口に湛えて
リンネのライトブラウンの頭を
後ろからワシャっと撫でた。

「熊が藁背負ってきたって?
リンネさんはどないなん?アリ
なん?ナシなん?どうやねん」

「そんなぁ、ぱちっと決まって
ないのんが、女心とちがいます
のん?ほらぁ、アリよりのナシ
やぁとか、ナシな感じのアリや
とか?ナシナシの逆にアリ?」

チョウコもキコも、鬱陶しいほど
リンネに近付いてくる。

「あの!別に、クラシタさんは
いい人過ぎるだけなんです!
勝手に、遊ばないで下さい!
運転しにくいですから!!」

リンネはフロントガラス越しに
チョウコとキコをひと睨みして

「あと、この辺り観光地なんで。
けっこうカフェとかいろいろ
あるんです。止めますよ。」

そう言って突然
全国展開する
某レンタル店の駐車場に
ぐんっと、軽トラを入れた。

「橋杭岩ってとこです。」

リンネがつっけんどんに
チョウコとキコに知らせる。

駐車場を周り込めば、
そこは
冬の小さな港で、
荒めな波の音が聞こえ
冷たい潮の薫りが風にのる。

身を縮こませて、リンネに先導
されながら
3人でレンタル店の隣に入った。


「えー、なになにここ?!
トルコランプめっちゃ吊ってる
やん!おしゃれってか面白い」

カフェの名前を上げた
電光板を潜ると
大きな窓が明るい
エキゾチックな
雑貨を売るブックカフェがある。

「リンネさん?紀州でトルコ?
なんや ようわからんけど、
この 『お目め』のん、変わって
はる。ちこっと買うていい?」

昔トルコ船が座礁した際に
救出した縁でこの辺りは、
親トルコ地域になっている。

それを景気に観光と
絡めた地域お越し。

カラフルな店内に色めく
キコが手作りも出来る

トルコ土産と書かれたコーナーで
青い目玉がじゃらじゃら付いた
キーホルダーを手にしている。

チョウコは
トルコ衣装で撮影が出来ると
はしゃいでいた。

「あんまりゆっくり出来ません
けど。お茶している間だけ
ですよ。あ、ドーナツは
テイクアウトお願いします。」

リンネはチョウコとキコに
声を掛けると
スタッフの女性に
メニューのトルコアイスと、
持ち帰りを頼んで、
ソファーに体を沈めた。

雑賀崎に行く理由。

それを話そうと思ったリンネは
諦めて、出てきたアイスを

2人を横目に
スプーンで長ーく
わざと伸ばした。