もしも、
日本最大デーダバンクを、
聞かれたら?
キコは迷わず、前の『会社』を
あげる。

就労する個人から始まり
大小関わらず何らかの業績が
数字に申告とされ 、
それに基づき個人資産や企業に
『会社』として
戦後から何十年も
食い込み
人の手足でもって
蓄積された情報は、
隠しようのない
真っ裸にされた国の姿を
形にするメガデータ。

しかもそれは、
漏れなく毎年必ず更新される。
加えて『会社』は
指導監督、調査、徴収、試験まで
行う。

「いやいや、スパイみたいなん
あるやん。あんなんするん?」

チョウコがキコの隣に来て
湯船に浸かる。

「うちは、部が違うんよ。」

チョウコがいう部署は
そもそも、
位置付けが特殊なのだ。
年間100件ほど『事件の企画』
するマルサ。

「ハジメくんがいてはったとこ
なんかは、そないな感じよ。」

それに対して
そこでさえ立案できない
あらゆる意味で
最後で最強の砦は
トッカンを生んだ
コメだ。

亡夫=トシのいたところ。

コメのレジェンドにもなれば
キャリアなんてぶっ飛ばす
怪物になる。
だから、地方ノンキャリが
目指す出世道とはいえ、

「うちの亡くなった旦那は
ハジメくんと、おんなしとこ
からべつんとこ移りはって。」

キコは、チョウコのお陰で
良い熱さになった湯を掬う。

「ストレスやろなぁ。」

あれはきっと、
ハジメの一族がハジメと仲を
良しとせず、嫌がらせを
してきたのだと、
故人=トシの葬儀が終わって
キコは悟った。

「新婚早々に異動したのやから」

高い情報収集力で
準備から企画選定をし、
調査実地に入って、
法ギリギリを交渉取引、
鋭い洞察で反面し
完結させる。

これを強力な組織統率という
ヒエラルキーの下
1人でやる事を要求される
コメの扱う件数は
マルサの5倍以上
1人あたり5億は下らない。

その評価の高さは多大で
『会社』ピラミッド内には
留まらず、
金融庁、預金保険機構、警察庁、法制局、内閣府、公正取引委員会、税関、裁判所、放送大学
出向という外部機関への
影響は計り知れない。
金の流れのない
場所なんて皆無なのだから。

あれは、恨みある異動。

「うちも異動したばっかりやった
もんやから、余裕のうて。」

洗い終わったリンネも
キコの隣に入ってきて
湯船は、
3人が並ぶといっぱいになった。

「やから、ハジメくんはよう
入院した旦那を、ほんまよう
見に行ってくれはってんよ。」

コメは、
『支店』からノンキャリが
叩き上げで
それこそ職員名簿に載らない
トクチョウや、
その道がうようよいる
風俗ハンカが、即戦力として
お墨付きの土産持ちで
入ってくる。

言わずと知れた派閥世界。
本物の力を持つ者が
力そのモノを目指すようになる。

『上』から派閥順にヌシまでくる
お達しは絶対。

人の欲というものは、
ある意味で金欲がマヒして
感覚がなくなると、
権力や色欲に向かうのだとも
嫌ほどキコは解っている。

新人研修で徹底的に
倫理道徳、番人としての誇りを
叩き込まなければ
容易に欲に走るのを
見てきた。

そんな中で、
土日や時間なんて実質ないコメは
デートさえ、
ナイカンやガイカンの合間にする
ぐらいなのだから、

「ハジメくんも、忙しいしてはる
のに。ほんでも、まあ、今は
好きな事してはるみたいやから
安心してるんよ、うちも。」

本の少し体を捩らせて
リンネに向かってキコは
笑うと、

「うちも前の職やめたことやし」

そうして
キコは湯で顔を暖めた。

「そんでもやで、ドラマでまだ
マシなもんやゆーやったら、
金持ちいうんは、やっぱりあれ
なん?お金あったらもっと欲し
なるから、隠したり横領したり
するもんなん、キコさん?」

興味津々という顔で
チョウコがキコを見ている。
が、キコは
そのチョウコの言葉に



となって、リンネも見る。
リンネもチョウコと同じ顔を
しているから、
同様の考えなのだとキコは
理解して、
大きく息を吐く。

「資産があるよって、隠すとか
そんなん 大した事ないんよ。」

マルシの扱う数は多くない。

番人の砦、最終の仕事屋、
キコが最後にいた
ギョウニンは、この国で1番
強力な力を体現する。

警視総監がもつ 捜査権よりも
強い行使力。

徴収権。

ギョウニンが行使し、
なければゴミでも山でも回収し、
1円でも金に変えて
有るべきところへ戻す。

ケシとはよく言ったもんだ。

まるでその存在か意味を
なかったか、に錯覚するのだ。

「ほとんどの お客さんが
手をつけはるのんは、
消費税。消費税として
お財布から払ってもろたんを、
ちょっと間に預かりはったんを
資金と勘違いしてか、解ってか
売り上げやて使いはるんよ。」

「え?!督促のほとんどが
消費税ってことなんですか?」

キコの言葉に、リンネが
驚いて湯から飛沫を上げる。

「ほんまに!?意外やん!
知らんかったわ!てっきり、
お世話になるんは、悪代官な
金持ちとか、羽振りええのん
やと思うやん!ドラマやと!」

チョウコも意外そうな声を
上げているのをキコは
また続けて、

「違うんよ。そら、そんな
お客さんもおるよ。でも、
大半が、めんどくさがりとか、
自転車操業してはるお客さん。
そんでもな、消費税ゆうて、
お支払いしてもらってるんえ?
あかんよ。騙してるんよ。
子どもでもわかるわなあ。」

ため息をつく。

「しょうのないアカンタレよ。」

「「・・・・」」

「どないしはったん?」

「いやー、なんか。なあ?」

「ええ、なんだか、キコさんの
『アカンタレ』が凄く、、」

チョウコとリンネが、キコを
挟んで見合わす。

「なんや、そんな『アカンタレ』
初めて聞いた気がするねん。
ものすご、愛あるゆーのん?」

チョウコの目がパチパチして

「人間味というか慈悲というか」

リンネも口をわなわなさせて

「「凄い『アカンタレ』聞いた!」聞きました!」

キコの肩をガクガクと揺さぶる。

「キコさん、天職やったんと
ちゃうのん?もったいないわ」

「戻れるなら、復職すべきです」

「えぇ、そない言われても、」

両方からにじり寄る2人に、
キコは目を白黒させて、
その気がないと言おうとして、

『は、ハックション!!!』

キコは盛大にくしゃみをした。

「あかんは、もう湯が覚めてる
やん!!シャワーして上がろ」

チョウコがキコとリンネに
そう誘って湯船から出た。

「やっぱりヌルいですね。」

リンネも湯船から出てシャワーを
捻る。

2人がシャワーから
熱い湯を出すのを見ながら、
キコも
「うちも、はよ上がらな。」
と、
シャワーを開ける。

ギョウニンの女、キコ。

もう、その面影は 湯けむりの
向こうに置いている。