集落で、
おそらく泊まれるのは、
この自然の家と、2、3の民宿的な
宿だろうとリンネは
チョウコとキコを
廃校になった中学校を利用した
平屋で長い自然の家に
連れてきた。

夕闇に浮かぶ
赤茶色の三角屋根が可愛いい。

「なんや、なつかしーやん。
あたしんとこも こんな山が
近い学校あんねん。校庭に、
アスレチックまであるで!」

チョウコは、THE学校な長廊下を
見通して、はしゃいでいる。

昨日のうちに予約をしていた
のだろう。
受付をするリンネを横目に、
キコはロビー横の囲炉裏やら、
土産モノを眺める。

もとは学校だった為に
庭ではなくて
山に囲まれた芝生の校庭が
青空駐車場も兼ねて、
端には社まであった。

「いつもは、安いから外国旅行客
でいっぱいなんですよ。今は、
まあ、新型ウイルスで渡航でき
ませんから。ほとんど、利用客
さん、いないみたいですね、」

リンネが 建物の静けさから
およそ考えられる事を
呟いて、荷物を置いたら直ぐに
入浴だと2人に促す。
コインランドリーがあるから、
装束も洗えるとか。

「なんやろね。林間学校みたい
やない?。部屋も教室なん?」

キコは、廊下ではしゃいぐ
チョウコをそのままに、
リンネに聞いた。

「さすがに、そのまんまじゃない
ですよ。教室の場所を、部屋には
してますから。でも、トイレは
学校のトイレの名残あります。」

そんな
リンネの返事が聞こえたのか、
チョウコが廊下の奥から叫んだ。

「うわ!ほんなら、ここって、トイレの花子さん出る?!あたしトイレ行く時、1人でいけんやん」

「チョウコさんは、ほっおって
置いてええでしょ。
リンネさん 部屋どこやろか。」

「いや、キコさんとりあえず、
迷惑になりますから!
チョウコさん!こっちです!」

そう、リンネはチョウコを呼んで
部屋の扉を開けた。

中は普通に
公共宿の部屋に改装されていて、
窓の外からかすかに
川のセセラギが聞こえる。

「もしかして、この辺りって、
夏やったらホタル飛びはん
のん?古道とホタルいうたら、
エモイ写真、撮れるんやろか」

雪の古道もええけど、
ホタルはもっとええ雰囲気やろ
なあと、
キコが暗くなりつつある
窓を開けて
リンネに振り返る。

「残念ですが、古道でホタルって
あまり見れないんです。
田辺の川か、新宮の方でなら
古道とホタルって感じですね。」

「キコさんー、山ならホタルって
思ったらあかんて。
あたしんとこも山多いとこやけど
ホタルなんか飛べへんで。」

いつの間にか
廊下散策から帰ったチョウコが、
部屋に入って荷物をガサゴソ
し始めていた。

「夕飯にはまだ早いんで、
先にお風呂にいきましょう。」

リンネはすぐに着替えて、
装束やらを
効率良くランドリーに
風呂がてら、入れに行く様で
チョウコもキコも
慌てて追いかける。

「食堂とかって、給食室やったり
したら面白いねんけど、どない」

「食堂は、理科室ですよ。」

「えぇ、そんなら、
ガイコツ置いてはるとか?
なかなか粋な食堂ですやろ
なあ、 チョウコさん? 」

すっかり、チョウコは怖がりだと
定着した揶揄に、
3人で笑いながら廊下を行く。

廊下ですれ違うのは
ひと組の老夫婦だけ。

行きついた共同浴場で

「あ、本当に貸し切り状態です」

リンネが思わず声にした。

「ほんま、林間学校やわぁ。
クラスで順番に湯船につかった
ん思い出すなぁ。温泉とちごうて
湯船も広ないさかいよけいに」

キコも、そう言いながら
先にカランを使う
チョウコの隣に座る。

「ほな、お先に浸からせてな。」

チャッと掛け湯をしたチョウコが
タイル張りの湯船に浸かって、

「うわ?!湯ー、ぬるいやんけ」

叫んだ。

「あー、たまにあるみたいです。
ま、シャワーなら熱ついです
から、それでよしとしま、」

「えー、そんなら熱いのん、
湯船に運ぶわ。浸かったほうが
疲れとれるやん。あたしやる」

チョウコはぬるま湯の浴槽に、
カランのお湯を桶に入れて
運ぶ。

「チョウコさん、シャワー。ギリ
足りるんと違うやろか?のばし
て湯船に直に入れはったら?」

キコがシャワーヘッドを持って
チョウコに渡すと、
シャワー温度を高にして
湯を開く。

「おー!さっすがキコさん!
出来る女は違うやん!いける」

「いややわ、出来るいうても
ほとんど、サバイバルやわ。」

キコは、手際よく
短いパーマヘアを洗っていく。

「あの、本当に前の仕事って、
マルサがいるとこなんですか」

「リンネさん、まだ言いはる」

リンネは、シャワーで
ウェーブヘアを濡らしているのが
キコから鏡ごしに見えた。

「その、もっと公務員公務員して
いる場所なのかと思ったんで」

リンネも鏡ごしにキコを
チラリと見る。

「わかるー!お役所仕事の権現
みたいなとこでさ、エリート
っぽい感じするやんな。ちがう
んやなあ。意外に土かたやん」

湯船も熱くなったからと、
チョウコもキコの隣カランに来て
上げていた長い黒髪を解いた。

「なんでも仕事なんて泥くさい
もんとちがいますのん。どんな
仕事も変わりあらへんのよ。」

キコは2人にそう答えて、
今度は体を洗っていく。
古道歩きで
収束を着けては、冬とはいえ
汗が凄かった。

「ほんなら、映画みたいな事
ないのん?ドラマだけなん?
凄い横領とかようやるやん。」

古道での垢を洗い落として
チョウコの言葉に
キコは、思う。

全公務員を支える税の番人が
泥臭くないわけない。

それを忘れられれば、
自分はまだあの場所に
そして、
ハジメもまだ
あの場所の番をしていた
のだろうかと。

「チョウコさん。あれは、
あれでも控えめにしてはるよ」

そうして、キコは
チョウコが温めた湯船に
浸かりに立った。