「お願い、水原さん。碧人くんの力になってあげて。いまの碧人くんを救えるのは、水原さんしかいないと思うの」

 わたしはぎゅっと両手を握りしめたあと、静かに口元をゆるめた。

「なんなの、それ。関わるなって言ったり、力になれって言ったり。どうしてわたしが、あなたの言いなりにならなきゃいけないの?」
「それは……」
「いい加減にしてよ! わたしはもう、碧人とは会わないって決めたの!」

 席を立ったわたしの腕を、篠宮さんがつかんだ。

「待って! この前のことはわたしが悪かった。謝る。ごめんなさい。わたしはただ、碧人くんが気持ちよく走るところを、見たかっただけなの」

 わたしは動こうとした足を止め、篠宮さんを見下ろす。

「わたし……中一の夏の大会で、碧人くんが100メートル走ってるところを見て……その姿がイキイキとしてて、すごくカッコよくて。それからずっと、碧人くんのことが気になってた。だから碧人くんが事故に遭ったことも知ってて、高校も……碧人くんが西高目指してるって聞いて、同じ学校を受験したの」

 わたしはじっと篠宮さんを見つめた。篠宮さんは、恥ずかしそうにうつむく。頬がほんのりと赤い。

「引いた? 引いたよね? これじゃ、わたし、碧人くんのストーカーだよ」

 篠宮さんの手がわたしから離れ、しょんぼりとうなだれた。
 わたしは静かに椅子に戻り、篠宮さんに言う。

「篠宮さんって……碧人のことが好きだったんだ」

 途端に顔を真っ赤に染める篠宮さん。わかりやすい。
 でもそんな彼女のことを、わたしはなぜかかわいいって思ってしまった。
 美冬のように。