部活に向かうみんなと別れ、ひとりで外へ出た。
 ずっと降り続いていた雨は、午後になるころやっとやんだ。
 もしも永遠に降り続いたら……なんて想像したけど、もちろんそんなファンタジーみたいなことは起きなかった。

 じめっと蒸し暑い空気が、シャツの上からまとわりつく。わたしはちょっと顔をしかめ、袖をまくり上げる。
 吹奏楽部のバラバラな楽器の音に、背中を押された。水たまりを踏みつけ校門を出たとき、聞き覚えのある声がわたしを呼んだ。

「水原さん」

 声のほうを見ると、自転車の横に立っている篠宮さんの姿が見えた。この前の勝気な顔と違って、ちょっと困ったような表情をしている。

 なんでこの子がここにいるの?
 さらに顔をしかめたわたしの前に、篠宮さんが近づいてくる。
 わたしは彼女が口を開くよりも先に、言葉をぶつけた。

「わたし、碧人には会ってないけど?」

 篠宮さんが黙ってうなずく。

「わかってる」
「じゃあなんの用? こんなとこまで来て……部活は?」
「今日は用事ができて休むって言ってきた」

 わたしはふっと小さく笑う。

「なんだ、サボり?」
「ちがうよ! あなたに話があって来たの!」
「わたしはあなたに話なんかない」

 冷たく突き放して、歩きだす。けれどそのあとを、篠宮さんが自転車を押しながらついてくる。

「大事な話なの。ちょっとつきあってよ」
「わたしあなたと話したくない」
「碧人くんのことなの!」

 わたしは足を止めて、篠宮さんを見た。篠宮さんは真剣な表情で、わたしを見つめている。

「お願い。碧人くんを助けてあげて」

 この子はなにを言っているんだろう。

 必死な顔の篠宮さんの上から、雨上がりの日差しが差し込んできた。
 篠宮さんはわたしの前で、もう一度「お願い」とつぶやいた。