「ほんとにちがうし。あいつは、わたしの親友の好きなひとだし」
「そうなの?」
「でも夏瑚ちゃんと彼、けっこうお似合いに見えたけど?」

 わたしはタブレットをいじりながら、笑って答える。

「そんなことないよ。わたしと碧人がつきあうなんて、ぜったいありえない」

 美冬のやわらかな笑顔が、赤くにじんで消えていく。

「さっ、歌うぞー!」

 わたしはマイクを持って立ち上がった。大音量のイントロが流れてくる。

 ああ、そっか、思い出した。
 吹奏楽部が演奏していたのは、この曲だ。

「夏瑚ちゃん、ノリノリじゃん」
「いいねー!」

 みんなも、わっと盛り上がった。わたしはマイクに向かって歌う。
 大きな声を出せば胸の奥のもやもやを、吹き飛ばせると思ったから。