「うっ、あっ……ごめんっ……」

 わたしもあわてて、腕でごしごし涙をこする。

 なに泣いてんだ、わたし。こんなところで泣いたら、みんな引いちゃうじゃん。
 だけど……この前碧人の前で思いっきり泣いてから、わたしの涙腺はゆるみっぱなしなんだ。

「水原さん……大丈夫?」
「う、うん……ごめんね。なんかこういうの……久しぶりで……」

 中学生のころ、部活が休みの日は、いつも美冬と響ちゃんと一緒に帰った。
 男子を交えてみんなで遊ぶのも楽しかったけど、女の子同士でおしゃべりするのも、わたしはすごく好きだった。

「え、えっと……わたしなんかでよろしければ、カラオケおつきあいさせてください」

 わたしが言ったら、みんながぷっと噴きだした。

「なにそれ、水原さん、おかしー」
「前から思ってたんだけど、水原さんっておもしろいよね?」
「そ、そうかなー?」
「そうだよー」

 女の子たちのはじけるような笑い声が、昇降口に響いた。
 わたしもなんだかおかしくなって、一緒に笑った。
 学校でこんなふうに笑うのは、いつぶりだろう。

「じゃあ、水原さんも一緒に行こう」
「うん」

 みんなで一緒に、傘を開く。色とりどりの花が、色のない雨の世界にパッと広がる。

 ちょっと動きにくい足で、水たまりを踏みつけた。
 校門の前に碧人はいない。だけどこれでいいんだ。

 わたしたちはあの夏から、前に進まなきゃいけないんだから。