マンションのエントランスから外へ出て、アイスを買いにコンビニへ向かう。

 目の前の道路は、イチョウ並木のバス通り。駅に近いからか、そこそこ車の量は多い。
 コンビニは道路の反対側なので、横断歩道の歩行者信号が青になるのを待つ。

 五月の風が、イチョウの若葉をさわさわと揺らす。
 目の前を行き交う車を眺めながら、わたしはポケットからスマホを取りだした。
 トークアプリを開き、いつものグループ名をタップ。

【ちょっと聞いてー】

 わたしのひよこのアイコンが、ぺらぺらとしゃべりだす。

【家に帰ったら妹にアイス食われてたー。サイアク】

 泣き顔の猫のスタンプ。

【それからね。となりの家の子にキャンディーあげようとしたら、その子の親に怒られちゃった。「うちの子に甘いお菓子食べさせないで」だって。でもさー、もらっておくぐらい、いいじゃんねー】

 今度は『激おこ』スタンプをタップ。
 わたしはスマホの画面を見下ろす。街のざわめきが一瞬静まる。

 歩行者信号が青になったようだ。となりに立っていたサラリーマンっぽいひとが歩きだした。
 だけどわたしはまだ、画面に集中している。

 返事はこない。わかってる。
 だってみんな、まだ部活中だもんね。

 ぽとっと水滴が画面の上に落ちた。