「でも今日は、急いで帰らなくていいんだ?」

 鴨ちゃん先生の言葉が、胸にちくんっと刺さる。

「うん。まぁね。もう用事がなくなったっていうか」
「ふうん」

 碧人は真面目に部活に出るようになったらしく、ここにはやってこなくなった。

 わたしたちはもう会わない。
 碧人は『しばらく』って言ったけど、もしかしたら大会が終わっても、わたしたちはもう会わないかもしれない。

 碧人にはわたししかいなくて、わたしには碧人しかいない。
 わたしたちしか、わかりあえない想い。

 だけどそれでいいのかな。

 いつまでもそうやって寄り添いあっていても、わたしたちは変われない気がする。
 いつまでも雨がやまず、夏がやってこないみたいに。

 だからわたしたちはもう、会わないほうがいい。

 わたしはポケットからミルク味のキャンディーを取りだす。包みを開け、口のなかに放り込んでから、もう一個を先生に差しだす。

「せんせ。これ、あげる」

 先生はわたしのとなりで、ふんわりと微笑む。

「ありがと」

 キャンディーを口のなかでコロンっと転がす。
 甘いはずのキャンディーなのに、なんだか苦い味がするのはどうしてだろう。