『じゃ、また明日な』

 グラウンドに向かって走りだす碧人の背中に、声をかける。

「待って、碧人! わたしもつきあうよ!」
『え?』

 碧人が不思議そうな顔で振り返る。わたしは胸のなかに芽生えたザワザワを追い払うように、にかっと笑って碧人に言った。

「わたしここで見ててあげる。お礼はアイスバー一本でいいよ」
『はぁ?』

 碧人は一瞬眉をひそめたあと、すぐにけらけら笑いだした。

『ま、いっか。じゃ、頼むわ。ひとりはちょっと寂しかったからさ』

 わたしは碧人の前でふふっと笑う。
 おとなりの家に遊びに行くと、ひとりぼっちで留守番していた碧人が、いつも嬉しそうにわたしを迎えてくれたことを思い出した。

「よしっ、じゃあがんばれ! 本番はぜったい一位でゴールしなよ!」
『だからプレッシャーかけるなって』

 碧人が笑って、わたしも笑った。

 ふたりだけの夕暮れのグラウンド。碧人の走る姿を、わたしはずっと見ていた。
 そしてその大会で、碧人はみんなの期待に応えるように、誰よりも速くゴールしたんだ。