「あの、えっと……」

 これじゃ、わたしのお母さんと変わらない。

『がんばってね、碧人くん。みんなの分まで』

 亡くなったみんなの分まで。走れなくなったわたしの分まで。
 みんなの想いを、碧人ひとりに押しつけてしまう。

 おじさんは背負わなくていいって言ったけど……きっと碧人はみんなの想いを、無理してでも背負おうとするはず。
 だって碧人は、根が真面目なやつだから。

「わかってるよ」

 つぶやいた碧人が立ち上がった。

「おれだけだもんな。あんな事故に遭ったのに、かすり傷ですんだやつ」

 碧人はたぶん、それを申し訳なく思っている。きっと、ずっと。

「わかってる。走ることができるのはおれだけなんだから……やるよ」
「碧人……」
「夏瑚にはしばらく会わない。そうする」

 碧人がわたしを見て、ほんの少し口元をゆるめた。
 それは、笑っているのに泣いているみたいに、わたしには見えてしまった。