「だけど……練習サボったのは悪かったと思ってる。先輩にも怒られたし、明日からちゃんと出る」

 わたしはちょっとホッとする。
 碧人は根が真面目だから、ほんとうはサボりなんか、できるはずないんだ。

「でもおれは夏瑚にも会いにくる。毎日は無理かもしれないけど……」
「どうしてそこまでするの?」

 わたしの声に、碧人が手を止める。

「わたしのことが心配なの? わたしだったらもう大丈夫だよ。碧人のお父さんに言われたとおり、わたしにできることを、ゆっくりやっていくつもりだから」

 碧人がじっとわたしを見ている。わたしはそんな碧人に笑いかける。

「だから碧人もできることをやっていきなよ。とりあえず、夏の大会に出るっていう目標があるんだからさ」

 碧人は黙ってうなだれてしまった。部屋のなかに沈黙が落ちる。

「碧人?」

 うつむいた碧人は動こうとしない。わたしはもう一度唇をかみしめて、碧人の背中をばんっと叩いた。

「なにしょぼんとしてるのよ! 明日からちゃんと練習して、大会出場して、ぜったい一位取りなよ? あんたはまだ走れるんだから!」

 碧人が顔を上げ、大きな瞳でわたしを見た。わたしはハッと口をつぐむ。

 最後の言葉、言わなきゃよかったな。
 なんだかわたしが走れない分まで、碧人に押しつけているみたいだ。