【ちょっと話がしたいんだけど】
【いまからそっちに行く】
【マンションの前まできた】
【会いにいっていい?】
【返事くれよ】
【ほんとにもう会わないつもり?】
【おい】
【返事しろ】

 そのあと着信まで何件も入っている。

 ヤバい。今日に限って、スマホの存在忘れてた。
 ずっと篠宮さんのことで頭いっぱいだったし。まさか碧人から連絡くるとは思わなかったし。

「夏瑚ー。なにしてるのー?」

 お母さんが呼んでいる。わたしはスマホをつかんで、仕方なくベランダからなかに入る。
 リビングでは、お父さんと一緒に入ってきた碧人が、万緒からタオルを受け取っていた。

「碧人……」

 碧人がちらっとわたしを見る。ふてくされたような顔つきで。

 最後の着信は、いまから一時間も前だった。ずっと碧人はマンションの前で、わたしの返事を待っていたんだろうか。

「碧人くん、座って。いまお茶入れるわね。あ、それともお夕飯食べていく?」
「いや、そんなの申し訳ないです」
「いいじゃん、食べていきなよ、碧人くん」

 お母さんと碧人の会話に、万緒が割り込む。さらにお父さんも口をはさむ。

「そうだよ。この前は夏瑚がお世話になったんだし。碧人くんのお父さんには、連絡しておけばいいじゃないか」

 碧人がお父さんとお母さんと万緒に囲まれている。わたしはその輪のなかに飛び込むと、碧人の腕を引っ張った。

「碧人! ちょっとこっちきて!」

 わたしは碧人を無理やり、自分の部屋へ連れていく。

「夏瑚?」

 お母さんたちが、驚いた顔をしている。
 だけどわたしはなにも言わず、碧人を部屋に押しこみ、ドアを閉めた。