「ただいまぁ」

 玄関の重たいドアが開き、サラリーマンのお父さんが帰ってきた。

「おかえりなさい、お父さん。あら!」

 お父さんを出迎えたお母さんが、素っ頓狂な声を上げる。

「碧人くんじゃない!」

 わたしの心臓がびくっと跳ねて、持っていた箸を漫画みたいにぽろっと落としてしまった。
 となりに座っている万緒が、そんなわたしを横目で見る。

「いまマンションの前で、ちょうど碧人くんに会ってね。よかったら久しぶりに寄ってかないかって、誘ったんだよ」
「……すみません。突然来ちゃって」
「いいのよ。どうぞ、上がって。あら、雨降ってたのかしら、濡れてるじゃない。夏瑚ー! タオル持ってきて!」

 お母さんが叫んでいる。だけどわたしは逃げるようにキッチンを飛びだした。

「お姉ちゃん? どこ行くのよ!」
「は、花にお水、あげるの忘れてた!」
「なに言ってんの? さっきあげてたじゃん」

 万緒の声を無視してベランダに出て、窓を閉める。

 なんなの? 碧人がどうしてこんなところにいるの?
 会わないって決めたばかりなのに、どうしてうちに来るのよ。

 なにげなく鉢植えを見下ろしたら、そばにスマホが置きっぱなしになっていた。
 そういえばさっき、花に水をあげようとして、持っていたスマホをここに置いたんだった。

 なにげなくそれを手に取った瞬間、わたしは思わず声を漏らす。

「えっ……」

 スマホの画面には、碧人からのメッセージがずらっと並んでいた。