「どうしたの、夏瑚。ぜんぜん食べてないじゃない」

 夕食の時間。わたしがぼーっとしていたら、お母さんに心配されてしまった。
 わたしはあわてて笑顔を作る。

「あー、なんか食欲ないから万緒にあげる」

 ハンバーグののったお皿を、テーブルの上でスライドさせたら、万緒が大げさに驚いた。

「え? アイス食べただけであんなに怒るお姉ちゃんが、大好物のハンバーグをあたしにくれるって、どういうこと?」
「うっさいなぁ。ちょっと考えごとしてるんだから、静かにしてよ」
「考えごと? お姉ちゃんでも考えることあるの? しかもご飯食べながら」
「あんたねー!」

 となりに座っている万緒のわき腹をくすぐってやる。

「キャー、やめてー、ひゃははははっ!」
「生意気な妹にはくすぐりの刑じゃー!」

 万緒があばれるから、食事の並んだテーブルがガタガタと揺れた。静かだった夕食の時間が、一気ににぎやかになる。

「あんたたち、食事中に騒ぐのやめなさい」

 お母さんに怒られてしまった。

「だってお姉ちゃんがくすぐるんだもん」
「ハンバーグあげるって言ってるに、あんたが文句言うからでしょ!」
「文句じゃないもん!」
「夏瑚、ハンバーグいらないの? 具合でも悪いの?」

 お母さんの表情が歪む。あの事故のあと、お母さんはずいぶん心配性になってしまった。

「ううん。なんでもないよ」

 ただ、さっきの篠宮さんの顔がちらちらと頭に浮かんで、食欲がまったくわかないんだ。

 あの子、わたしと別れたあと、部活に戻ったのかな。
 碧人には会ったのかな。碧人は大丈夫なのかな。
 先輩って、怒ると怖いんだろうか。意地悪されてないだろうか。
 大会には出させてもらえるんだろうか。

 あー、もう。頭のなかがぐちゃぐちゃだ。