「碧人くんだったら来ないよ」
「は?」

 わたしはつい口を開けてしまった。

「碧人くんを待ってるんでしょ? 来ないよ。部活の先輩に呼びだされたから」

 女の子が自転車を押しながら、一歩わたしに近づく。わたしは顔をしかめた。

「あなた、誰?」
「あなたこそ、誰なのよ?」

 女の子が機嫌悪そうに聞いてくる。なんだか腹が立って、冷たく答えた。

「わたしは水原夏瑚。碧人の幼なじみだけど?」
「幼なじみ? 彼女じゃないの?」
「まさか! 彼女のわけないじゃん!」

 首を振ったわたしの前で、女の子は納得できないような顔つきで言った。

「わたしは篠宮(しのみや)。篠宮千晴(ちはる)。碧人くんと同じクラスで、陸上部のマネージャーやってんの」

 陸上部のマネージャー? マネージャーがなんでこんなところに?

「最近碧人くんが授業抜けだして、部活にもこないから、先輩たちが騒ぎはじめて……おとといわたし、碧人くんのあとを自転車でこっそりつけてきたの。そうしたらあなたに会って、公園でバスケなんかして遊んでるじゃない?」
「ちょっと待って! 公園までつけてきたの?」

 サイアクだ。この子、碧人のストーカー?
 篠宮さんが、さらにむすっとした表情で答える。

「心配だったんだもん。碧人くんになにかあったのかと思って……なのにこんなところまで来て、女の子と遊んでるなんて……もう信じられなかった!」

 わたしはぎゅっと自分の手を握りしめる。