靴を履き替え外へ出る。雨は降っていなかったけど、空はどんよりと曇っていた。

「あれ……いない」

 いつものガードレールのところに、碧人の姿はなかった。
 わたしはきょろきょろとまわりを見まわす。

「今日は……来ないのかな……」

 つぶやいてから、はっと口を閉じる。

 なに期待してるんだろう、わたし。
 碧人は部活があるんだから、こんなところに来ちゃダメなのに。
 来るなって何度も言ったのは、わたしなのに。

「バカみたい……」

 ひとりでため息をつき、ガードレールに寄りかかる。
 だけどもしかしたら、碧人は今日も、わたしに会いにくるんじゃないかって、ちょっとだけ思った。

 手のひらを開いて見つめる。昨日の夜、おじさんの車のなかで、碧人の手をにぎったことを思い出す。

「ねぇ」

 そのとき突然声をかけられた。
 見ると自転車を押した女の子が、わたしのそばに立っている。

 知らない子だ。誰だろう。
 小柄でショートボブの、ちょっと気の強そうな顔をしたその子は、碧人と同じ西高の制服を着ていた。