「いやぁ、なにも言わずに引っ越してしまって、ほんとうに悪かったね」

 もう遅いから今日は早く帰ったほうがいいと言われ、わたしはすぐに帰る支度をして、おじさんと碧人と一緒に駐車場へ向かった。

 車に乗り込むとき、「おれはここで……」と碧人が言ったけど、「おまえも来るんだ」とおじさんに押しこまれた。
 だからわたしたちはいま、後部座席に並んで座っている。

「夏瑚ちゃんの家族に行先も言わずに消えてしまって、ほんとうに申し訳なかった。長い間、よくしてもらっていたのにね」
「いえ……」

 とは言ったが、お母さんは碧人たちのことを、とても心配していた。わたしもなんでって思った。でもいまならわかる。
 碧人はあの事故からも、学校からも、みんなからも、わたしからも……一刻も早く逃げたかったんだろう。

 そんな碧人を想って、おじさんは引っ越しを決めた。
 きっと碧人もおじさんも、わたしやわたしの家族に、二度と会わないつもりだったのかもしれない。

 だけどわたしは碧人を呼んでしまった。
 碧人はわたしに会いにきた。
 わたしたちは再び、交わりはじめた。

「でもよかったよ。夏瑚ちゃんが元気そうで」

 おじさんも、わたしのお母さんと同じことを言う。
 きっと思っているんだ。みんなの分まで、がんばって生きてねって。