「ふたりとも、なに騒いでるの?」

 洗濯ものを取り込んでいたお母さんが、ベランダから顔を出す。

「万緒がわたしのアイス食べやがった!」
「アイスぐらいまた買ってくればいいじゃない」

 リビングに入ってきたお母さんがため息をつき、お財布を手に取った。

「ほら、これで買ってきなさい」

 千円札だ。

「やった! ラッキー!」
「だったら万緒の分も!」
「あんたはもう食べたでしょ!」
「また食べたいもん! あのアイスおいしかった」

 そう言われて、わたしはちょっと嬉しくなる。

「でしょー! あのアイスはね、中学のときの部活の友だちが、好きだったやつなんだ!」

 万緒が黙った。途端に微妙な空気が流れる。
 お母さんがあわてた様子でわたしの背中を押す。

「ほら、買ってらっしゃい。そんなにおいしいなら何個でも」

 わたしはお母さんと万緒の前でへらっと笑う。

「うん! ちょっとコンビニ行ってくるね!」

 万緒はなにも言わずにわたしを見ていた。お母さんは笑っていたけど、どこかわたしに気を使っているようだった。
 わたしはもう一度、ふたりの前で笑顔を見せて、制服のまま外へ出た。